コンバージョンポイントの壁。顧客が静かに離脱する原因は「見えないAPIエラー」かも (Problem)
「コンバージョンポイント」、つまり、ユーザーがあなたのサービスに登録したり、商品をカートに入れて決済したりする重要な転換点。ここのコンバージョン率(CVR)を上げるために、UIデザインの改善や導線の見直しを行っている企業は多いでしょう。
しかし、もしその努力にもかかわらずCVRが伸び悩んでいるとしたら、原因は別の場所にあるかもしれません。
「登録・決済プロセス」が正しく動かない恐怖
私たちが注目すべきは、「見えないAPIエラー」です。 例えば、以下のようなケースです。
- 特定のブラウザや環境でのみ、決済APIのレスポンスが遅延・失敗している。
- 在庫確認APIが、100回に1回の割合でタイムアウトしている。
- 会員登録時に呼び出す外部の認証APIが、予告なく仕様変更を行っていた。
これらは、開発環境では再現しづらく、ユーザーからの報告も「なんだか動かない」といった曖昧なものになりがちです。しかし、この「なんだか動かない」こそが、ユーザーが「コンバージョンポイント」の壁を越えられずに静かに離脱していく最大の原因なのです。
従来のログ監視では追いきれない「散発的エラー」
「ログを見ればわかる」と思うかもしれません。しかし、サービスが複雑化し、マイクロサービスや複数の外部APIと連携するのが当たり前になった今、すべてのログを目視で追うのは不可能です。
sshでサーバーに入り、tail -fで流れるログを眺める...。そんな属人的な監視体制では、散発的に発生する致命的なエラーを見逃してしまいます。
属人的なエラー対応が「見えない負債」を蓄積させる (Agitation)
この「見えないエラー」を放置することは、静かに、しかし確実に「見えない負債」を蓄積させます。
機会損失:エラーが原因の「カゴ落ち」や「登録離脱」
あなたがエラーに気づかない間にも、ユーザーはエラー画面に遭遇し、「このサービスは信頼できない」と判断して離脱しています。これは、広告費をかけて集客した大切な見込み客を、自らドブに捨てているようなものです。
開発リソースの圧迫:優秀なエンジニアが障害対応に忙殺される
問題が深刻化し、炎上してからようやく重い腰を上げる。優秀なエンジニアのリソースが、本来割くべき新機能開発ではなく、後手後手の障害対応(しかも原因特定が困難)に奪われていく。これは、企業にとって最大の損失の一つと言えるでしょう。
解決策は「プロアクティブな監視」の自動化 (Solution)
この負のスパイラルから脱却する唯一の方法は、属人的な監視を止め、「プロアクティブ(能動的)なエラー監視を自動化」することです。
問題が発生してから対応するのではなく、問題の兆候をシステムが自動で検知し、開発者に即座に通知する仕組み。それを実現するのが、「Sentry」と「Logtail」の組み合わせです。
「Sentry」と「Logtail」が最強のタッグである理由
なぜ、この2つを組み合わせるのでしょうか? それは、それぞれが得意とする監視領域が異なるからです。
- Sentry: アプリケーション(フロントエンド、バックエンド)の「実行時エラー」の検知・通知
- Logtail: システム全体(サーバー、API、データベース)の「ログ」の集約・分析
例えるなら、Sentryは「患者(アプリ)の異常(エラー)を即座に知らせるアラート」であり、Logtailは「その異常の原因を探るための、あらゆる検査結果(ログ)を一元管理するカルテ」です。
Sentryの役割:アプリケーション・フロントエンドのエラー検知
Sentryは、特にフロントエンドのJavaScriptエラー監視に絶大な効果を発揮します。
// Sentry SDKを導入するだけで...
import * as Sentry from "@sentry/react";
Sentry.init({
dsn: "<https://your-public-key@o0.ingest.sentry.io/0000000>",
// ... 他の設定
});
// これ以降、Reactコンポーネントのエラーなどが自動でSentryに送信される
ユーザーが「決済ボタンが押せない」という状況に陥った時、その原因がTypeError: undefined is not a functionのようなJavaScriptエラーであれば、Sentryは即座にそれを検知。どのブラウザで、どのコードの何行目で発生したかを開発者にSlackやメールで通知します。
Logtailの役割:バックエンド・APIのログ集約と分析
一方で、問題がフロントエンドではなく、バックエンドのAPI(例: 決済API)にあった場合はどうでしょうか。Sentryは「APIリクエストが500エラーを返した」ことは検知できますが、「なぜ500エラーになったのか」まではわかりません。
ここでLogtail(Better Stackの一部)の出番です。 Logtailは、Nginx、Docker、各種APIサーバー、データベースなど、システム全体のログをリアルタイムで一元的に収集します。
// Logtailに集約されたログのイメージ
{
"timestamp": "2025-11-17T09:30:15Z",
"service": "payment-api",
"level": "error",
"message": "Database connection lost",
"trace_id": "xyz-123"
}
{
"timestamp": "2025-11-17T09:30:16Z",
"service": "frontend-app",
"level": "warn",
"message": "Payment API returned 500",
"trace_id": "xyz-123"
}
Sentryのアラートをきっかけに、Logtailで関連するtrace_idを検索すれば、フロントエンドのエラーの直前に、決済APIサーバーで「Database connection lost」エラーが発生していたことが即座に判明します。
なぜSentryとLogtailを組み合わせるのか? (Narrow down / Proof)
Sentryだけでも、Logtailだけでも、エラー監視は可能です。しかし、コンバージョンポイントを超えるような「複雑なエラー」の根本原因を迅速に特定し、自動化するには、この2つの組み合わせが不可欠です。
ユースケース①:フロントエンドのJavaScriptエラーを即時検知
- 発生: ユーザーが特定の操作(例:クーポンコード入力)でJavaScriptエラーに遭遇。
- 検知 (Sentry): Sentryがエラーを自動検知し、開発チームのSlackに通知(エラー内容、発生頻度、環境情報を含む)。
- 対応: 開発者は、ユーザーからの報告を待たずに問題を認識し、即座に修正(デプロイ)に着手できる。
ユースケース②:Logtailで複数APIのログを横断し、根本原因を特定
- 発生: Sentryが「会員登録APIが503 (Service Unavailable) を返した」と通知。
- 調査 (Logtail): 開発者はSentryのアラートID(または
trace_id)をキーにLogtailを検索。 - 特定: 会員登録APIだけでなく、関連する認証APIやメール送信APIのログも横断的に確認。結果、認証APIの負荷が急増し、DBのコネクションプールを使い果たしていたことが根本原因だと判明。
- 対応: 認証APIのDB設定を見直すことで、再発を防止する。
自動化がもたらす「開発生産性の向上」という具体的成果
この仕組みがもたらすのは、単なる「障害対応の高速化」ではありません。
- 工数削減: エラーの検知と原因特定にかかる時間が劇的に短縮されます。
- プロアクティブ対応: ユーザーが不満を感じる前に、問題を先回りして解決できます。
- リソースの最適化: エンジニアが「見えない負債」の返済(障害対応)ではなく、本来の「価値創造」(新機能開発)に集中できるようになります。
「見えない負債」を解消し、攻めの開発体制を築くために (Action)
「コンバージョンポイント」の壁でユーザーが離脱する原因を「なんとなく」のまま放置し、属人的な対応を続けることは、もはや経営リスクです。
SentryもLogtailも、小規模から始められる無料プランや安価なプランを提供しています。まずは、最もクリティカルな「コンバージョンポイント」の導線に関連するエラー監視から自動化を始めてみませんか?
「見えない負債」を可視化し、解消することで、開発チームは自信を持って「攻め」の開発にリソースを集中させることができます。

